岩手の高断熱住宅は「窓選び」から「窓創り」へ

14年前の2006年、窓の輸入しようと候補になった会社の担当者に、

ヨーロッパの窓には規格サイズはない

サッシの規格サイズと価格表を送ってほしいとメールすると、

 規格サイズなんてない、
 価格はあなたの希望サイズ・指定した構成部材で見積りするだけだよ。

そんな回答に、

  では規格サイズを作ってそれに価格付けた表を作ってくれないか。

という内容を再度メールすると、

 なぜ規格サイズが必要なのかわからない。私たちには必要ない。
 あなたが必要なものなら、あなたが自分で作ればいいだけのこと。

  ダメだ、こりゃ・・;

ヨーロッパの窓(サッシ)の断熱性能は注文するもの

窓の断熱性能を教えてほしいとメールを送ると、
「どの位の断熱性能が必要なのか?」との返信があった。
それで再度、どの位の断熱レベルが可能なのか?と返すと、
「どのようにでもなる?」との返事が返ってきた。

どうにでもなる?って・・質問への答えになってない。。

なんか困った、かみ合っていないような、、

これじゃあ、前に進めないべな。。

私は窓の規格サイズやサッシの断熱性能を教えてくれればいい、
サイス・性能を選択したい、
ただそれだけなのに。

のちに分かったことだけど・・・
窓に対する考え方や窓の生産のしくみが日本とヨーロッパでは大きく異なっていた。
ここでその違いを話し出したら・・・長くなると思うので、
今日はできるだけ、窓の断熱性能に限った違いのみにしたいと思います。

日本とヨーロッパでは大きく違ったサッシに対する考え方

日本のサッシ

日本の場合、一般にサッシメーカーの公称値を断熱計算では一律に採用している。
窓の商品ごとに決められたサイズでの性能が表示されているので、
その性能値を見て窓商品を選択すればいい、
あとは窓サイズ表から選ぶ、みたいなシンプルものです。

ところが・・・

ヨーロッパのサッシ

ヨーロッパは、窓枠を選び、ガラスを選び、スペーサーを選び、
金具を選び、レバーハンドルを選んで初めて注文できるというしくみだったのです。
注文するこっち側が窓を考えなければならない、
”窓を創る”立場というのが当たり前だったのです。

さあ、どうすべえ・・
と、こちらが悩んでいると、メールにエクセルファイルが添付で届きます。
相手の担当者がこちらの無知さを悟ったのか、それとも業を煮やしたのか分からないが、
その添付ファイルは窓性能の計算シートでした。

ヨーロッパではサッシの構成部材と断熱性能を注文するのは当たり前

窓の断熱計算1
これが送られてきたエクセルの計算シート。
この当時は木製サッシを輸入しようとしていたので、
パインとメランティという二つの材種のU値が事前に入力されてある。

ヨーロッパって、材種毎に違う断熱性能のデータを持ち
サイズを入力して自分で窓の断熱性能を計算できるようにしているなんて・・・
ヨーロッパってどれだけ進んでいるんだか。
と思ったものです。

無知な男の、未知”ψ”との遭遇

当時、このシートの中で、なんだこりゃ!?と思ったのが、

 ”Spacer ψ”

なんて、初めてのワード・・

調べて見ると、

Spacer = 複層ガラスの周囲でガラス間のスペースを保つ部材

ψ =ガラススペーサー部分の線的な断熱性能のこと。

無知な私には、
住宅の断熱性能を考える上で日本で話題にも耳にもしたこともない、
そんなガラスの端っこまでなぜ計算に入れるのか?
ガラススペーサーには種類があることも、断熱性能に違いがあるということも、
知らなかったからこの時は理解できなかったのです。

その後、このガラススペーサーの種類と断熱性能の違いを知ることになると、
俄然このシートの重要さがより理解できるようになってきます。

例えば、上画像シートのψ値=0.067の時、
パイン枠にトリプルガラスで窓サイズ巾90㎝×高さ120㎝の場合なら、
この時の窓の断熱性能は、 U値=0.977

この組み合わせのままガラススペーサーのみ、
もっと断熱性能の高いスペーサーに交換した場合で入力してみると、

窓の断熱計算2
ガラススペーサー ψ値=0.067   ψ値=0.038に変更すると、
窓の断熱性能   U値=0.977   U値=0.881に性能は1割程UP。

日本では得体知れずだった線状性能というものを変えただけで、
窓全体の断熱性能は10%も変わるなんて・・

線状の断熱性能恐るべし!です。

こうなると、人間、妄想を拡げるためにも遊んでみたくなるというもの(笑

いろんな組み合わせの計算を何度も繰り返して行くと、無知な私でも、
これは効果が高い、思ったほどでもない、等が良くわかるようになって来ます。
この時は、まるで子どもが新しいおもちゃを見つけたような感じだったかな。

例えば、

窓の断熱計算3

ヨーロッパには無料で使える窓の断熱計算アプリがあり、
当社は現在それを使っているので、今はこのエクセルシートを使うことはないのですが、
敢えて現在の当社の窓仕様で入力してみます。

結果、アプリとほぼ同一の結果となったので、
アプリが無くてもサッシの断熱性能だけなら判断は簡単にできることになります。

ついでに、窓サイズに因る性能差を観ると、

窓の断熱計算4
窓サイズを 90㎝×120㎝  120㎝×120㎝にすると、

窓の断熱性能は、Uw=0.666  Uw=0.632へと5%性能はUPします。

枠よりガラスの方が断熱性能が高いので、
窓に占めるガラスの面積割合を大きくすれば、窓の断熱性能が上がるわけです。

じゃあ、ガラス面の大きい窓にすればいいんだな、

てな話になりがちですが、話はそう簡単ではありません。

岩手に気候に適した窓の断熱性能と窓サイズは

トリプルガラスを採用したい岩手のような寒い地域では
縦辷り窓を選んだ場合、3枚ガラスの重みで建具部分が下がるリスクがあること、
大きな窓ばかりだと、損傷のあった場合にガラス交換の費用が高くなること、
などに配慮しながらサイズを選択していくことになると思います。

その他、窓のコンビネーションデザイン毎でも断熱計算できるように、

窓デザイン毎に断熱計算
ここまで用意されていました。

私がこのように注文者側が”窓をつくる”ということを知ることができたのは14年前ですからね、
実はヨーロッパって、いつから窓をこのように捉えていたのか・・・
それを考えるとそら恐ろしいものを感じます。

再度お話しますが、
窓枠よりガラスの断熱性能は格段に優れているわけです。

その状況で、もっと窓の断熱性能を上げるためには?

と考えた時、

ヨーロッパは、
ずっと以前から”窓枠性能”と”ψ”を上げることにエネルギーを注いで来た。

日本では、
震災後、性能の弱い窓枠を小さくするように創意工夫し省エネ性能を上げた。

この視点の違いは、断熱意識の違いか、歴史の違いなのか・・・
と考えさせられてしまいます。

窓の結露性能を考えると、窓枠の断熱性能とspacerψが左右します。
それに窓を取付けた後の住宅の躯体と窓の取り合いの断熱性能ψistallもある。
共にψ、線状の断熱性能です。

岩手の住宅は高断熱にすればするほど、ψinstallはより重要に

ψinstallは日本では殆ど話題になることはないです。
ヨーロッパではかなり重要視されているのに。
窓自体は同レベルの断熱性能でありながら取付後の窓の断熱性能差は、
30%にもなるケースさえあるのです。

日本の殆どの窓メーカーは窓全体のU値は公表しているけれど、
窓枠の断熱性能Uf、ガラスの断熱性能Ug、ガラススペーサーの断熱性能ψなど、
窓を構成しているそれぞれの部材性能は公表してはいないので、
注文者側は計算すらできないのが現状です。

もし各仕様部材の性能を示してくれたら、
窓のデザインやサイズを適切に検討しやすくなるはずです。

それに日本の窓を底上げするためにできるものなら、
どのような窓の取付方法なら窓のψinstallがこれだけの性能値になる、みたいな、
いくつかの指針となる施工例情報を提供してくれたらいい。

そうしたら、

地域に合った窓の施工法を選び、将来に最適な窓をつくる

ことが可能になり、日本の窓の未来はもっと明るくできるはず。

いつか来るそんな時代を楽しみにしたいものですね。

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