同じ窓を使っても、取り付け方しだいで窓まわりの温度は変わる。
ということはこれまで何度もここでお伝えしていますが、今日もまた改めてお話します。
ドイツには、それを数値で確かめる物差しがあります。
Uw,installed:「壁に取り付けた状態の窓の熱貫流率」。
日本には、この物差しがまだありません。カタログに載っているUw値は、いわば、家に、サッシがまだ付けられていない”宙に浮いた窓”の性能値なんです。
カタログのUw値が語らないこと
窓を選ぶとき、多くの方がUw値(窓の熱の逃げにくさ)を比較します。それ自体は正しいです。
ただ、あの数値は窓単体の評価です。その窓を壁のどの位置に、どんな材料で、どう納めて取り付けるか、ここは窓の評価範囲の外側になります。
熱は正直です。サッシ本体がいくら高性能でも、サッシと壁の取り合い部に弱点があれば、そこから逃げていく。この取り合い部の熱の逃げを表す数値を、専門的には ψinstall(プサイ・インストール/窓取り付け部の線熱貫流率) と呼びます。
やっかいなのは、家が高断熱になるほどこの部分の存在感が増すことです。UA値0.2前後の家では、壁からの熱損失が小さいぶん、取り付け部の熱橋が相対的に効いてくる。サッシの断熱性能が良くなるほど、取り付けが勝負になる。ちょっと逆説的ですが、そういう構造になっています。
「いちばん良い窓を選んだのに、下隅だけ結露する」
「カタログで上位クラスの窓を入れたのに、冬の朝、窓の四隅だけうっすら結露している」
盛岡あたり(省エネ地域区分3)では、めずらしくない話です。氷点下5℃の朝なら、なおさら。
窓が悪いわけではありません。施工した大工さんの腕の問題とも限らない。評価の物差しが、そこまで届いていないだけ、だと私はそう考えています。だから施主さんの側からは原因の見当がつかないし、つくり手の側も「数値で説明する手段」を持てずにいる。ここが日本の窓性能表示の、静かな盲点だと思うのです。
欧州との違い、「窓の性能」の意味がそもそも違う
欧州では事情が違います。
ドイツをはじめ、サッシを壁に取り付けた状態の性能”Uw,installed”で考える文化が根づいています。サッシ単体の性能に、取り付け部の熱の逃げ(ψinstall)を上乗せして、実際に家に付いた状態で評価する。
つまり向こうでは「窓の性能」=「取り付けた後の性能」。日本では「窓の性能」=「取り付ける前のサッシ性能」。同じ言葉が、指しているものからして違うのです。
私たちは、この取り付け部の熱橋を抑える工法で特許(特許第6995421号)を取得しています。ところが、これを公的に数値評価してもらう仕組みが国内にはない。第三者評価機関との協議は続けていますが、待っているだけでは前に進まないので、方針を変えました。
試験機関で、取り付け方の異なる5パターンの試験体をつくり、比較試験を行うことにしました。(内容の詳細は、試験が1年以上後に終わり結果とあわせてお伝えできる段階になったら書きます)
試験の前に、計算が必要だった、アプリ開発の経緯
ここでひとつ、実務上の壁がありました。
国内規格の枠外の試験ですから、試験体の設計から自分たちで決めなければなりません。試験体の端からどれだけ余白を取れば、測りたい部位の端に影響が及ばないのか。これを見積もらなければならないのですが、市販ツールでは見当たらない。
そこで、「なければつくるしかない」となった。窓まわりの断面を細かい格子に分けて温度分布を解く、2次元の熱橋計算プログラムをAIに相談しながら自分で組みました。計算の結果、試験体の端部には十分な余白が必要なこと、断熱材の種類によって熱の乱れが収まる距離が違うことなどが分かり、試験体の寸法を根拠を持って見つけることができほっとしました。
ところがです。これが計算できたのだから、
もしかしたら…
施主さんにもそのまま見せられるアプリに仕立てられるんでねえの?
てことで進めた結果、できたのが今回の3画面です。
温度計算モード(外気0℃)。 ガラス中央は19.1℃あるのに、ガラスの縁は14.7℃、枠と壁の取り合い部は15.8℃。Ug0.6のトリプルガラスでも、縁は中央より4℃以上低い。「窓の温度」がひとつの数字だけで語れないことが、この一枚でわかるのではないでしょうか。
結露計算モード(外気−5℃)。 左右で取り付けディテールを違えて比較しています。枠と躯体の取り合い部は、左が18.2℃、右が15.1℃。同じ窓、同じ室温で、納め方だけで約3℃の差。ガラスエッジ部には結露リスクの警告が点きます。これがψinstallの世界です。
夏モード。 冬だけでなく、夏型の逆結露(壁の中の防湿層外側で起きる結露)も判定します。シートの性能差が効いてくる領域で、防湿層外側面の温度と飽和水蒸気圧を突き合わせて「安全」「結露リスク」を表示するようになっています。
正直な疑問が。サーモ画像と、序列が逆に見える
さて、ここからが今日いちばん書きたかった話です。
これは2024年3月28日、自社の比較実験BOXの窓まわりをFLIRの熱画像カメラで撮ったものです。スポット温度8.4℃。サッシの外側、窓周囲がぐるりと青く冷えているのが分かります。
ところで、
先ほどの結露計算アプリでは、ガラスエッジ部(13.7℃)のほうが、枠と躯体の取り合い部(15.1℃)より1.4℃も冷たい、という序列でした。
ところがこのサーモ画像を見ると、いちばん濃い青、つまりいちばん冷えて見えるのは、枠と壁の境目のあたりなんです。
あれ? 逆でねえの?
正直、私も一瞬そう思いました。そして、ここを誤魔化して通り過ぎるわけにもいきません。
計算は、仮定の上に立っている
答えを先に言うと、アプリの数値は計算結果です。 物性値どおりの材料が、図面どおりの寸法で、隙間なく施工されている。その仮定の上に立った答えです。
一方、サーモ画像に写っているのは実物です。捕獲実験BOXは窓周囲は図面の通り構成したつもりでも実際の壁とは構成も違いますし、実物には施工の個体差、気流の影響もある。カメラの側にも、放射率の設定や映り込みといった熱画像特有の癖もあります。
つまり、どちらが「正しい」かは、この2枚を眺めているだけでは決着がつかない。条件を揃えた実測でしか、答え合わせはできないわけです。
だから試験します。試験機関の5パターン比較試験で得た実測値を、このアプリの計算結果と突き合わせる。ずれていれば、計算側の物性値や境界条件を補正する。予測と実測のずれを埋めていく作業こそが、シミュレーションを”営業資料”ではなく”道具”にする工程だと考えています。
規格の枠外でも、国内でまだ公的に認められていなくても、実測で裏を取った計算なら、施主さんに堂々とお見せできるはずです。欧州のUw,installedの文化も、根っこにあるのは「計算と実測をセットで回す」姿勢です。日本にその物差しがまだないなら、まず自分たちの手の届く範囲で、同じことをやってみるしかないのです。
よくある質問
新築なのに窓の下隅だけ結露するのはなぜですか?
窓の下隅は中央より温度が下がりやすい部位だからです。ガラスの縁にはスペーサーという部材がありそこに断熱スペーサーがあってもそれでも熱橋です。さらにサッシと壁の取り合い部には取り付けによる熱橋(ψinstall)が生じます。私たちの計算では、外気−5℃のとき、ガラス中央19.3℃に対しガラスエッジは13〜14℃程度まで下がるケースがあり、この温度差が下隅だけの結露につながりやすいと考えています。
窓のカタログのUw値と、実際に取り付けた後の性能は違うのですか?
違う場合があります。カタログのUw値は窓単体の評価で、壁への取り付け方による熱の逃げは含まれていません。同じ窓でも納め方によって窓まわりの表面温度が変わることが、計算上は約3℃の差として現れることもあります。欧州では取り付け後の性能(Uw,installed)で評価する考え方が使われています。
ψinstall(窓取り付け部の熱橋)とは何ですか?
窓と壁の取り合い部から逃げる熱の大きさを表す数値で、「窓取り付け部の線熱貫流率」と呼ばれます。日本の窓性能表示には含まれておらず、公的な評価の仕組みもまだありません。家の断熱性能が高くなるほど、この部分の影響が相対的に大きくなる傾向があります。
窓まわりの結露は施工不良が原因ですか?
必ずしもそうとは限りません。図面どおりに丁寧に施工されていても、取り付けディテールの設計自体に熱橋があれば、窓まわりの温度は下がります。施工の問題か、設計(納まり)の問題か、それとも室内の湿度環境の問題かは切り分けが必要で、熱画像カメラでの確認が判断の助けになります。
窓の結露を防ぐには、何を確認すればよいですか?
サッシ本体の性能(ガラスの仕様・枠の素材)に加えて、「窓をどう取り付けるか」を施工会社に聞いてみることをおすすめします。取り付け部の断熱への配慮があるか、窓まわりの表面温度を実測・計算で示せるか、この2点に答えられる会社なら、結露リスクについて具体的な話ができるはずです。あわせて、冬場の室内湿度を上げすぎない暮らし方も効果があります。
続報を書きます
かなりあとの話になりますが、試験結果が出たら、アプリの予測値と実測値を並べて、ずれも含めてこのブログで公開したいですね。合っていても、ずれていても、そのまま書きます。
そして窓際の温度は、数字を眺めるより、冬の朝に窓辺に立って、そして触れてみるのがいちばん早い。モデルハウスでは、冬にFLIRの熱画像カメラでその場の温度分布をご覧いただけます。窓まわりがどう見えるか、ご自身の目で確かめにいらしてください。見学だけでも大歓迎です。しつこいご案内はしませんので、お気軽にいらしてください。



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