
築160年の家に、いまも普通に人が暮らしている。
しかも空きが出れば、すぐに次の入居者が決まるほどの人気なのだそうです。
先日、三重県に出張してきました。目的は住宅の視察、と言いたいところですが、小さなお祝いのため。私は住宅屋ですから、それで終わらせるはずはありませんよね。モデルハウス、建築中の現場、完成したばかりの新築住宅、その3カ所を見学させていただきました。でもね、正直にいうと、いちばん心を掴まれたのは予定外の場所だったかと。
松坂城跡のふもとにある、殿町という一角です。
今日はまず視察した3カ所を簡単にご紹介して、そのあと殿町の話をじっくりご報告します。
視察① モデルハウス、「借景」のある窓設計

まず1カ所目はモデルハウス。玄関を入った瞬間の「抜け」が見事でした。縦長のFIX窓の向こうに緑が広がり、左官仕上げの壁が光をやわらかく受け止める。ベンチを兼ねた収納がアクセントになっている。


中庭を囲むコートハウス型のプランで、キッチンの窓からも植栽が見える。アメリカでもヨーロッパでもよく見かける人気の窓配置。窓を「外を見る穴」ではなく「絵をかける壁の額縁」として設計している、そんな印象です。窓の性能を専門にしている私としては、窓の使い方の引き出しが増えた感じがします。詳しくはまた別の記事で紹介しま
視察② 塔屋のある家
2カ所目は建築中の現場。塔屋(とうや);円筒形のタワー部分を持つ住宅です。



足場の中に立つ八角形の塔と、吹き抜けの階段室に立つアイアンの手すり。養生の隙間から見えるディテールに、施工チームの丁寧さが表れています。塔屋のような曲面・多角形の施工は、雨仕舞いと断熱の連続性が難しいところ。ここも学びが多かったので、別記事で掘り下げますね。
視察③ 新築の家、素材の足し算と引き算

3カ所目は完成したばかりの住宅。焼杉調の縦格子塀に、割栗石、黒いピンコロ石のアプローチ。玄関土間はブルーグレーのタイルで、浮かせたベンチ収納が空間を軽く見せています。


素材の数は多いのに、うるさく感じない。色数を絞って質感で変化をつけているからだと思います。これも詳しくは後日。
そして殿町へ。ここからが今日の本題です
3カ所の視察を終えて、少し時間があったので松坂城跡へ。1588年に蒲生氏郷が築いた城の跡なそうです。その石垣の下に、まっすぐな石畳の道が伸びていました。

両側には、きれいに刈り込まれた槙(イヌマキ)の生垣。マキガキと言っていました。その奥に、瓦屋根の平屋がずらりと連なっていたのです。
これが「御城番屋敷(ごじょうばんやしき)」。幕末の1863年、松坂城の警護にあたった紀州藩士20人とその家族のために建てられた組屋敷。つまり武士の長屋です。東棟10戸、西棟9戸。国の重要文化財に指定されています。
ここまでなら、よくある歴史的建造物の話です。
私が驚いたのは、その先でした。
重要文化財に、今も普通に人が住んでいる

この長屋、今も現役の「住宅」なんです。
藩士の子孫の方々が設立した会社が代々維持管理を続け、子孫の方が住む住戸のほかは、一般の方に賃貸されているそうです。空きが出てもすぐ埋まり、「空きはないか」という問い合わせが定期的にあるのだとか。

生垣の隙間から、鉢植えや室外機、手入れされた前庭がちらりと見える。観光地の「展示」ではなく、生活の気配がある。石畳を歩きながら、なんともいえない感動がありました。
住宅屋として考えさせられたこと
なぜこの長屋は160年住み続けられるのか。
もちろん当時の材料と架構が良かったこともあるでしょう。でも本質はそこではない気がします。現地で感じたのは、こういうことです。
人が住み続けたから、傷みにすぐ気づけたから
空き家は一気に朽ちる。換気されず、雨漏りにも誰も気づかない。住むこと自体が最良のメンテナンスなんです。
手入れが暮らしに組み込まれているから
あの見事な槙垣は、住民の方々が手をかけ続けてきた結果です。建物単体ではなく「街並みごと」守られている。
住みたい人が絶えない
隙間風もある、勝手に改修もできない。それでも「ここで暮らしたい」と人が集まる。家の価値は性能だけでは測れないのだと、突きつけられます。
私たちは岩手で、UA値やC値といった数値性能を徹底的に追いかけてきました。それは寒冷地で快適に暮らすための土台であり、これからも変わりません。
ただ、殿町の石畳を歩いて思ったのは、
性能は「長く住みたくなる家」の必要条件であって、十分条件ではないということ。
愛着を持って手をかけたくなる素材、年月とともに味わいを増す外壁、次の世代に渡したくなる佇まい。160年住み継がれた長屋は、その答え合わせのような場所でした。
盛岡や滝沢の家々も、100年後にこんなふうに愛されて残ってくれたら。
そう考えると、いま建てる一棟一棟の責任の重さを、あらためて感じます。
おわりに
三重で見た3つの現場と、160年住み継がれた武家長屋。新しいものと古いものを二日で見比べられたのは、良い偶然でした。モデルハウス・現場・新築住宅それぞれの詳しいレポートは、また別の機会に紹介しますね。
「長く住み継げる家」がどんなものか、言葉で説明するより実物を見ていただくのが早いと思います。滝沢市のモデルハウスでは、実際の温度環境も素材の質感も、ご自身の肌で確かめられます。
見学だけでも大歓迎ですので、お気軽にお越しください。

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