親不孝と母の日

ひいぼ少年は毎年この時期になるとお母さんに付いてわらび採り。
朝3時に起こされ、山のしくさ場のある場所まで1時間とちょっと。
わらび山に登りつくあたりにやっと空が白けるが足元の山肌はまだ暗い。
お母さんはすでにテンポよくわらびをもぎ取りながら山の急斜面を
進んで行く。明るい昼でもあるかのように。「おとなの目って暗くても
見えるんだ」といつも感心していた。そして6時過ぎには採り終わり
家に帰る。7時半過ぎにはやって来る業者さんに買い取ってもらう
ために切り揃え、ワラで束ねなけらばならないからだ。
ひいぼ少年はお母さんの4分の1も採れないのがいつも悔しかった。
それに加えて細く硬いのや短か過ぎて売れないのをはじくと実際は
もっと少なくなるから余計悲しくなる。


ある日、本家のおずうさん(爺さん)が
「オレももっといっぱいわび採りてえ!」と言った少年のために大人
サイズの半分の小さなしょいカゴを編んでくれた。竹の青さが残る
新品のしょいカゴだ。それだけで急に一人前になった気の少年だ。
その新品のしょいカゴをしょって、ある日曜の朝ひいぼ少年はわらび
採りに出かけた。この日はいつもと違う。暗い沢道を一緒に怖がりな
がら歩いているのは隣りの家の幼なじみのみっつ君。
「危ないから」と止めるお母さんの注意の言葉にも関わらず自分達だけで
わらび採りがしたかった。それはお母さんと一緒だと売ったワラビ代金は
お母さんが手にするからだった。自分で採ったわらびを自分で売り、直接
自分の手で受け取りたかった。
新品の小さなしょいカゴにいっぱいに採ったワラビ。
自分一人で初めて手にした代金は2千円とちょっと。
ひいぼ少年が初めてよそのおじさんから稼ぎ出したお金だ。
そのお金をポケットに押し込み落とさないように手で押さえながら
向かった先は部落?で唯一食品を売っている○澤商店。
どれにしようかと悩みながらも何とか選んで買ったのが
魚肉ソーセージ、たまご、納豆、のり・・・
そして、鉢植えのサボテン
その日の夕方、仕事から帰ってきたお母さんに
「これぇ、かあちゃんに。母の日だべ・・・」
ガサゴソと袋の中身を見てお母さんは聞いた
「何?このソーセージとかは?」
えっ?と一瞬思ったがひいぼ少年は
「少しでも家の生活のたす(足し)になっがどもってえ」
お母さんは、一瞬の間を置いて
「あっはっはっはははは」と涙を流しながら大声で笑い転げた。
ひいぼ少年は喜んでこそくれ、なぜ笑われるのか分からず
「だぁって、いっつもうぢにはおがねはない、貧乏なの!って言ってっけががあ」
と言いながら涙を浮かべた。そしてお母さんはお腹をかかえながら
「だって、人の顔見ればいつもお小遣いお小遣いって言うがっか」
「おがねの無駄遣いをさせないためにかあちゃんは言ってたの!」
ウソをつかれていた・・・ ちょっとショックだった。
「ところでこのサボテンは?」と聞かれたがもう応えなかった。
カーネーションはあったが切花なのですぐに枯れる。
サボテンなら水さえやれば・・・忘れても何十年ともつだろう
と思ったからに過ぎない。
ひいぼ少年はこの時以来、母の日に何もプレゼントしたことはない。
何十回と涙を流させたくせに。
今年も電話1本で済ませた。
「あ、おれだ。元気だが?」

   母「なにが、したのがあ?」
「んん、特に何にも・・・ただ母の日だっつうがらよ・・・」
   母「ねえちゃんがら、花はおぐられできたどもよ」
「そうがあ、いがったな・・・ んじゃあ、まだ電話すっがらよ」
   母「体ば気い付けろよ」
「んだばな」
この会話1分もかかってない。
わらび事件がトラウマになっているわけでもないだろうが、事件以来
人への贈り物が苦手となり、ひいぼ少年は未だに親不幸をまっしぐらに
歩んでいる。

4 件のコメント

  • ゴールデンウィークの締めくくり。ひいぼ少年の優しさとお母さんの愛情に感動しました。昨日は劇団ゆうの「ピーターパン」を娘と見に行き感動!感動! ところで社長さん 小説家になってもいいかもね・・・。

  • 母の日、今年は何もしなかった私・・・たまには実家に帰ってみようかな~と思いました(^.^)そうそう、一足先にこごみを取ってきました☆今年はわらびもまだあと一ヶ月位はかかるそうなので・・・こごみはお日様の味でした(^.^)

  • Yさんへ。俺も行きたいピーターパン。ナオちゃん喜んでたでしょっ!もう少し経ったらガーデンパーティしよう。劇団○○?を呼んでさ。

  • rさん、こごみもおいしいですね。私は子どもの頃からうるいの味噌汁が大好きでしたが、大人になったらおひたしで晩酌をキュ~っと、がメニューに追加されましたね。

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