世界と、日本と、岩手の住宅

セミナーの中でも度々紹介することがいくつかある。

その一つが、
ロシアのメディアが発表した冬における世界の主要国の住宅の平均室温、

日本の住宅の平均室温は、10℃。
これは主要国の中でぶっちぎりで、世界第1位。
日本人てどれだけ忍耐強いかがわかる。

子どもは風の子、親は風の親、

と言うことかもしれないが、
住宅の温熱環境で世界とのこの住格差は何とも悲しくなる。

そんな悲しくなる自分も今でこそであって、
アメリカの住宅を知る30年前までなら、10℃なんて温かい方だべ!と
過ごしていたのだから、当時は悲しみようもなかった。

子どもの頃なら、
冬を暖かく過ごす、ことは、暖を採る、ことだった。
そう、当時はブリキでできたダルマの薪ストーブを囲むこと。

そこで過ごしたあとは、炬燵に潜る。
炬燵に潜る頃にはストーブに薪はくべないので部屋はどんどん寒くなるのみ。

そして寝る際は、
事前に湯たんぽやアンカで暖めておいた布団に潜り込む。
これまた局所的に熱すぎる位になっている割には布団全体は冷え切っているので、
気持ちよく眠りに就くとは言い難かった。

冬の夜、部屋を暖房もせず外気温に近い状況で布団の淵が息で凍ってても、
当時はそれが凍死しないで夜をやり過ごすための術だったような気がします。

それが普通だと思っていたし、
それ以上の暮らしをしている世界を知らないのだから
それはそれで幸せだったのかもしれません。

その後、スイッチポンの電気こたつに、
石油ストーブへとヴァージョンアップする度に小躍りしてた。

そんな便利な装置も、暖かいのは温風の吹き出すストーブの前だけ。
温風は天井へ天井裏へと舞い上げられ、座してくつろぐ床面に近い所は
寒いままでほとんど温度は上がらないのに、そんなことは気にしなかった。

暖に近づく、触れる、暖房で暖かい部分をつくる、
人間が生存するために、
人が居る場所・部屋に暖があればいい。
廊下や脱衣所を暖めるなんて罰当たり的思考だったかもしれない。

忍耐の上に、省エネが成立していたのが50年前で、
今はもう違うと思っていた。
自分は家も職場も建てている家も皆暖かいせいで、
周囲の現実を観る目がマヒしていたらしい。

現実は、日本の住宅は現在でも冬平均室温が10℃だった。
どれだけ日本人て忍耐強いんだか。

ここに日本人の大きな視点の違いがあるのだということに最近気づいた。
それは、冬に暖かく過ごす手段は、
部屋を暖める火力、床面を暖かくする方法、温風が満遍なく行き渡る暖房機とか、
暖房機次第だと考えていること。

家中を暖めたら暖房費がいくらかかるかわからないから、質素倹約の美徳へ走るけど、
それは我慢という肉体的なダメージの上に成り立っている。

家自体を、断熱を変える、という意識は希薄だ。

この室温平均10℃の日本の中にあって、我が岩手県人もかなり我慢強いと言えるのが、

岩手県人の冬における就寝時の布団枚数は、3.22枚。
都道府県でダントツの全国第1位だ。
湯たんぽ・アンカの利用率も全国で第1位って凄すぎませんか。

世界で最も低温で暮らす日本の中で、最も布団枚数が多い岩手県。

でも、これが岩手県の普通です。
私も世界の住宅を知らずに生きてたら、
アンカから布団乾燥機で布団を暖められただけの暮らしの進歩で、
幸せを感じてるところで終わっていたかもしれません。

ですが、海外とりわけヨーロッパの人たちは違う。
暖房機より先ず、暖房の熱をいかに逃がさない家を造るかを最優先に考える。

80年前から窓はトリプルガラス
だから、80年以上前に建築された病院施設でさえ、
写真のようにトリプルガラスの木製サッシを使用している。

50年前の実家も木製だったけど、それはサッシと言うより木製のガラス戸で、
それが傷んで窓が引っかかり開けられないとかの不便が出てきて、
いつしかその窓がアルミフレームのサッシに交換された。
けど・・・ それでも結局ガラスは1枚のみ。

でもそれが周囲の普通だから、自分ちも進化したと満足していたような気がする。

北欧の4枚ガラス窓
これは築何十年かのフィンランドの住宅の窓だけど、
木製のペアガラスサッシが2重になっていて計4枚のガラス。

先の病院施設もこの住宅も、気候的には岩手県盛岡市よりちょっと寒い、
滝沢市の冬の気温と殆ど変わらない、一戸の奥中山よりずっと温暖な場所で、
ヨーロッパの人たちは如何に熱を逃がさない窓、熱の逃げない断熱の家にするかという
考え方はずっと前から普通のことだった。

ドイツの家の断熱
この写真はドイツの建材見本市で展示されていた住宅の断熱構造の実大サンプル。

岩手県と変わらないか、もっと温暖なエリアでもドイツなどはこれが普通のこと。

ドイツの家の断熱2断熱厚さは30㎝は当たり前。


窓は3枚ガラスが当たり前、4枚ガラスだってある。

このように、日本の普通と海外の住宅とのギャップがここまであると、

日本には、岩手には、そこまでは必要ないでしょ。
てな声が聴こえてきそうだ。

現に25年前もそうで、
その頃日本のサッシにはなかったLow-Eのペアガラスの窓をアメリカから輸入して
お客様方のおススメした際も、

ここは網走じゃないんだから、そこまで全然要らないでしょ。

と、業界や同業は皆口を揃えた。
それが10年もすると省エネ基準の改正でLow-Eガラスもアルゴンも普通になってしまった。
まあ、これもしょうがないことで周囲の普通を10人に言われたら、
私でも知らなかったら普通に説得されてしまいますから。

住宅の断熱を日本人の常識以上にして、
岩手の住宅でもヨーロッパ並みの暮らしができるようにするために、

私たちにできること。

先ず、

・住宅自体の断熱の大切さを知ってもらうこと。
・日本人の常識から考えたら断熱が高すぎるなんてない、ことを知ってもらうこと。
・強引に暖めることなく、自然に感じる暖かさがどういうものかを体感してもらうこと。

これが知ってしまった私たちの役目ではないかと。

先は長そうだけど、地道に一歩ずつかな。

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