住宅の高断熱化でより顕在化する窓にあるリスク:熱橋(ヒートブリッジ)

ψinstalled基準の画像

相変わらずPC内2015年断捨離から。
2015年は窓のこと、PX-Ⅱプロジェクト、アプリ製作等、過去一番てんこもりの年だったのだと、今更ながらに認識しています(笑

今日は高断熱な窓のために当時知ることになったガラススペーサーの需要性などをお伝えします。

ガラススペーサー抜きで高断熱サッシは語れない

ここ十年ほどで日本のサッシもトリプルガラスが一般化してきました。トリプルガラス自体そう珍しくもない時代になったのです。当社がアメリカカナダからトリプルガラスのアルミカバーされた木製サッシを輸入したのは30年ほど前になります。現在の国産サッシメーカーのトリプルガラス樹脂サッシに比べても、アルミクラッド木製という高価なサッシ枠にトリプルガラス仕様ですと、輸入サッシの価格は5倍から7倍したものです。ぺガラス樹脂の輸入サッシですと逆に日本の半分程の価格でしたから、当時のトリプルガラスがどれほど高かったのかが想像できると思います。

性能には、体験した者にしかわからない価値がある

当時を振り返ると、日本のサッシメーカーにはないトリプルガラスサッシです。普通そんなものは要らないとなります。当時日本のサッシメーカーにはLow-Eガラスもアルゴンガス仕様のペアガラスもなかったのですから、それはそれは別世界過ぎて・・価格以前にそのサッシが創り出す生活シーンなど想像できるはずもありません。

輸入トリプルガラスの高性能な窓によって変わる岩手の冬の暮らし

50坪、60坪規模の家が今でいう全館空調で家全体が暖まる、もしくはFFストーブ1台で家全体が暖かい。この体験は値段のことなど忘れるほどにサッシの価値を皆さんに満足していいただけるものでした。その暮らしを観た人はそれなら家を建て替える価値があると感じてもらえたのか依頼が続いたものです。

ですが体験していない方は、途方もなく贅沢なものと判断される方もいらっしゃいます。自分の経験の範囲で頭で考えたらそうなるのは当たり前なことです。この当たり前を乗り越えるには、どんな暮らしをしたいのかに向けてほんの少しの知識と情報を持たないとぞうぞう乗り越えられない領域のようです。

岩手の冬を快適にするには欧米のような高断熱サッシが必要

施主さんたちのお陰も加わり、サッシの重要性についてもっとより追及するようになります。トリプルガラスが別次元で受け入れ難いのであれば、せめて日本にはないペアガラス、Low-Eガラスアルゴンガス仕様のものを提供しないと岩手の暮らしは変えられないと考えたのです。ですが、この高性能なぺガラスサッシでさえ、競合メーカーさんたちがこぞって、

 ここ岩手は網走じゃないのだから、そんな高性能な窓は不要だ。

みたいなことをこぞって言われてしまったら・・・多数派の意見に納得いてしまう方が多くいらっしゃったことには自分の無力さを思い知ったものです。

家の断熱性能に自分基準を持てるようになったインターネットの普及

これは私もそうだったし、個人の方でも情報を得られるようになった大きな要因はインターネットです。このおかげで私たちの窓に関する情報元がヨーロッパへシフトすることになります。ヨーロッパのサッシにはごく当たり前にトリプルガラスがありましたし、アメリカのサッシ枠に比べても私の目に入った極厚の木製サッシは私の期待を十分に満たすものだったのです。

ガラススペーサーの種類で違ってしまうサッシの断熱性能

ヨーロッパからトリプルガラスの木製サッシを輸入するようになります。ある時、「現在提供してもらっているサッシより断熱性能の高いサッシはあるのか」を訊くと、「いくらの性能のサッシが欲しい?」と返ってきます。

サッシの断熱性能って設定できるものなの?

いくらの性能が欲しいって言われても・・ いくらまでの性能が可能かもわからないのに、、、
てことで、いくらまでが可能かを教えて欲しいとメールを送ると返ってきたメールに、添付でエクセルの計算シートを送るので自分で計算してみてほしい。それでお前が欲しいものの組み合わせを言ってくれたら俺たちはそれを作るだけだから。というものだったのです。

サッシの断熱性能を個別に計算するのは当たり前なヨーロッパ

添付で送られてきたサッシの断熱計算シートを観てびっくりです。そこに見えたものを簡単にまとめてみます。

・窓のデザイン形状が簡単なFIXとドレーキップ一体の組み合わせタイプがあり、そこにサッシ寸法に入力
・サッシ枠の樹種毎の熱伝導率があり、樹種の選択とサッシ枠の厚さの入力欄
・ぺガラス、トリプルガラスそれぞれの性能一覧からガラスを選択
・ガラススペーサーの選択

これらを選択・入力すると、サッシ性能Uw値が表示されるのです。

 なに、これ! 最高じゃん!

こんな便利なもので、ヨーロッパは普通にサッシの断熱性能を判断できるようになっているって凄すぎる。なぜ日本にはこういうしくみがないのだろう?とも思いますよね。その話をすると余計に長くなるの省略しますけど(笑
ここで初めて知ることになったのが、ガラススペーサーなるものでした。

サッシの断熱性能計算にガラススペーサーを入れる

日本のサッシ性能の話では話題にもなったこともないガラススペーサーを変えて入力してみると、それだけでトリプルガラスサッシの性能が変わることを知ったのです。その時からしばらくは、お気に入りのおもちゃを手に入れた子どものようなものです(笑

国産サッシのガラススペーサー

日本のサッシは10年ほど前まで、ずっとアルミスペーサーでした。トリプルガラスサッシが商品化されるようになると同時に樹脂スペーサーが断熱スペーサーとして登場したのです。今現在でも国内サッシメーカーでは、アルミか樹脂の2択しかありません。

樹脂スペーサーの選択肢が広く用意されているヨーロッパのサッシ

貰ったサッシの断熱性能計算シートには3種類ほどのガラススペーサーの熱伝導率が提示されていましたが、ガラススペーサーを作るメーカーとメーカーごとに用意されている製品種別まで含めたら一体どれだけのスペーサーが存在するのか今でも私には分からないほどです。

2015年のフォルダ内には以下のデータがありました。

岩手の高断熱サッシのためのガラスエッジスペーサーをの画像

凄いと思いませんか。これだけでもサッシの奥深さを思い知るには十分です。

トリプルガラスの断熱性能はガラススペーサーでこれだけ変わる

同じフォルダ内にあった表の方が直感的にわかりやすいのでその表を紹介します。

ガラススペーサーのサッシ断熱性能への影響の画像

左のUgというのがガラス自体の性能、これはガスの種類・ガス層の厚さで変わってきます。下の段がガラススペーサーの種類で左のアルミから始まって右はスペーサーでは一番右がトップブランドのスイススペーサーになります。同じガラス性能でガラススペーサーによってサッシの断熱性能Uwが違ってくるのがわかります。

赤い枠がドイツのパッシブ基準であるサッシの断熱性能になります。アルミスペーサーの場合ですと、ガラスの断熱性能Ug=0.5w/㎡K以下でないとドイツのパッシブ基準をクリアできません。ですが、アルミ以外の断熱性の高いガラススペーサーを採用すると、ガラス性能Ug=0.6W/㎡Kでもパッシブ基準を満たすことができます。

ガラススペーサーでガラスの断熱性能を置き換える

ガラスの断熱性能Ug=0.5W/㎡Kや0.4は、ガラスに封入されるのは概ね高価なクリプトンガス領域です。これをガラススペーサーの断熱性を上げることで、アルゴンガス領域のUg=0.6でもパッシブ基準をクリアできるわけで、これはコスパが高い。これはユーザーにとっては大きなメリットであると言えます。

線状熱損失の影響を拡大するサッシの高断熱化

ガラススペーサーの断熱性能はψglas値で表します。ψ値とは、複層ガラスの端部における線状熱橋(ヒートブリッジ)による熱損失を表す係数で単位はW/(m・K)です。通常の熱損失は面積当たりで表しますが、ψ値の場合は線での熱損失なので長さm当りで表します。ペアガラスレベルの断熱性能なら取るに足らないものでしたが、サッシの高断熱化とともに線状熱損失割合は相当大きいものとなっています。だからドイツのパッシブ基準ではこの点についても基準を設けているのです。

サッシのガラススペーサー以外にも存在する線状熱損失

一般には、サッシの断熱性能を重視する場合、サッシの断熱性能Uw値を目安にします。Uwにはガラススペーサーの断熱性能も含まれているのでサッシの選択目安としては正しいです。ですが、もう一つの線状熱損失ψがサッシ外側に存在しています。サッシは住宅の躯体に取り付けられて初めて窓になります。この窓周囲に線状熱損失ψが存在し、この線状熱損失をψinstallと呼びます。

日本では計算されない目安もない窓周囲熱橋(ヒートブリッジ)

この窓周囲熱橋(ヒートブリッジ)は、このブログで度々取り上げていますので、窓周囲熱橋、または、窓周囲ヒートブリッジでブログ内検索してみてください。私も2012年の断熱チェックの際、サーモカメラに映しだされた画像を観るまでは問題意識など全くありませんでした。この問題の現象についてはわかった。でも問題あることはわかってもそれが何なのか、調べても調べても出て来ない。それがドイツサッシの資料からその問題が何であるかを知ることになったのです。

予想外に大きかった窓周囲熱橋(ヒートブリッジ)の影響

少しずつ窓周囲熱橋対策を進めるようになります。ですが、その効果はどれほどのものなのか。窓周囲熱橋の熱損失ψ値が分からなければ熱橋対策効果もわからないままになります。そこで、その損失量の判断材料がないならば自分で目安を作ればよい。例えそれが我流であっても自分たち自身の目安にはなるのだから。と測定を重ねてみたのです。

最初は何もわからず一か月ほどはただただ測定するだけの毎日でしたが、ある時をきっかけに測定値が安定するようになります。その測定値を海外のデータとすり合わせてみるとかなり近い数値であることが確認でき間違ってはいなかったことにほっとしたものです(笑

ψinstall値を含めたトリプルガラスの断熱性能Uwはペアガラス並みに

サッシの取付方法ごとでの測定をし、その取付方法ごとの熱損失量を割り出してみると、トリプルガラスの樹脂サッシ半外付けタイプの場合、トリプルガラス樹脂サッシの断熱性能はψinstallを含めた計算では、ペアガラス並みになることがわかったのです。この時は「こんなにか?何か間違ったのではないか」と思うほど驚愕したものです。このことを知らずに、断熱が!とウンチク垂れていた自分が恥ずかしくなりました。

サッシ性能Uw以上にサッシ取り付け後断熱性能Uwinstalledが重要

パッシブハウス基準ではサッシの断熱性能Uw=0.8W/㎡K以下というのはお伝えした通りです。サッシのことを海外サイト等調べていると、ドイツのパッシブ基準に窓の取付後の断熱性能Uwinstalledという基準があることを知るに至ります。

ψinstalled基準の画像

これがそのサッシ取り付け後性能を表した画像になります。Uw=0.8の横Uwinstalled=0.85とあります。要するにψinstallの損失をサッシの面積㎡当たり0.05以内にしないさいよ、ということになります。

住宅の高断熱化で顕在化する窓にあるリスクまとめ

ここまではψinstallの熱損失量の話でした。この損失量を暖房費に換算すると、3000円位でしょうか。私もこれらの情報から、当初熱損失量にばかり目を向けていました。ところがです、最近はこの窓周囲ヒートブリッジ問題は夏型結露リスクの方が重要ではないか、と思うようになっています。

日本では殆ど話題にもならない話です。トリプルガラスを輸入した時もそう。Low-Eガラスを輸入した時もそうだったように、日本国内で話題にもならないものは受け入り難いものです。でも海外特にドイツでは当たり前に基準が設けられているのは事実なのですから、岩手のために住宅の高断熱化を目指してきた私たちは目を背けるわけにはいきません。

すでに家を建てた方も、これから家を建てることを検討している方も、この情報が何かの機会に少しでも役立つことを願っています。