アメリカの住宅を見学したり、海外ドラマや映画を観ていると、日本の住宅とは異なる窓周りやドア周りの仕上げに気づくことはありませんか。この違いの多くは「ケーシング(Casing)」と呼ばれる建築部材によるものです。個人的にはアメリカ住宅のインテリアを象徴するものというイメージなのです。そこで今回は、ちょっとマニアックなアメリカの住宅で一般的に使われるケーシングについてお話してみようと思います。
ケーシングとは?
ケーシングとは、窓やドアの開口部周りに取り付けられる装飾的な部材のことです。日本語では「額縁」や「見切り材」とも呼ばれ、構造とドアやサッシ枠の隙間(クリアランス)を隠すものです。日本ではドア枠と一体で使われるかケーシングがあったとしても四角い部材で装飾性はほとんどありません。ところがアメリカの住宅では室内の美観を向上させると共に施工の効率化に重要な役割を果たしています。
アメリカ住宅におけるケーシングの特徴
厚みのある立体的なデザイン

アメリカのケーシングは、日本の一般的な窓枠と比較して非常に厚みや幅などに非常に多くのバリエーションがあり、立体的な造形が特徴です。カタログをみるとその種類の多さに驚くはずです。上の画像でも確認できるように、単なる平面的な枠ではなく、段差や凹凸のある複雑な断面形状を持っているのがわかると思います
クラシックなモールディング
多くのアメリカ住宅では、伝統的なモールディング(装飾的な成形材)をケーシングに採用しています。
何も知らず始めてみた時は、
こんな手間のかかることをここまでやるのか?アメリカってすげえ!
と思ったものです。
だってこのケーシング一つで同じドアなのに、いくらでもお好みで格調高さを調整できるし、家の表情を変えてしまう力を持っている部材なのです。
表面の丸みを帯びたウェイブ形状
ケーシングの表面をよく観察すると、単純な平面ではなく、優雅な曲線やウェーブ状の凹凸が施されていることが分かると思います。これらの丸みを帯びた形状には、以下のような意味を持っているようです。
光と影の演出効果
曲面は光の当たり方によって陰影が変化し、時間や照明条件によって異なる表情を見せます。これにより、静的な空間に動的な美しさを持たすことができる。
クラシック建築の伝統
このウェイブ形状は、古代ギリシャ・ローマ建築から受け継がれた「モールディング」の伝統的な技法です。このモールディングは装飾として窓フレームなど石材などで使われています。現在ではウレタン成型したものが多いかもしれません。
触覚的な心地よさ
人間の目は直線よりも曲線に心地よさを感じる傾向があります。丸みを帯びた形状は、視覚的なやわらかさと温かみを空間に与えてくれるのです。
塗装時の実用的利点
アメリカの人たちは自分でドア交換くらいは当たり前です。平坦な面と比較して、適度な凹凸があることで塗装時の刷毛跡が目立ちにくく、DIYでの塗り直しも比較的容易なのは重要なポイントかもしれません。
ケーシングの機能と役割
構造上の役割
- 壁材と窓・ドア枠の間の隙間を美しく隠す
- 施工時の不完全な部分をカバーする
- 窓・ドア交換の施工性が高く交換後の美観も損なわない
- 窓・ドア交換時の施工誤差を吸収する役目
デザイン上の役割
- 室内に重厚感と統一感を生み出す装飾要素
- 好みの建築様式の特徴を表現できる
- 空間に奥行きと立体感を与えてくれる
メンテナンス・リフォーム対応
アメリカでは窓やドアの交換が非常に一般的で、住宅所有者自身がDIYで行うケースも少なくありません。ホームセンターではドアに枠付きで売っていますので貸出し用のトラックに積み込んで持ち帰り自分で交換するしくみが整っています。このドア・窓の交換において、ケーシングは極めて重要な役割を果たしています。
窓やドアを交換する際、新しい製品が既存の開口部にぴったり合うことは稀です。わずかな寸法の違いや、施工時の微細なズレが生じるのは当然のことです。ケーシングがあることで、こうした不完全な部分を美しくカバーし、プロ並みの仕上がりを実現できるわけです。
つまり、ケーシングは「許容範囲を広げる」機能を持っており、これが施工性効率が高いこととDIYを容易にさせている要因です。
日本との違い
日本では一部の神社・仏閣のような伝統建築では細やかな装飾性はありますが、日本の一般的な住宅では、窓枠は比較的シンプルで薄い形状が一般的です。これは、日本の住宅文化が「簡素美」を重視する傾向が強いからではないでしょうか。
アメリカの住宅の住宅に学ぶべきは、ケーシングは単なる装飾部材ではなく、ドア・窓の交換を前提にしている部材だということが重要ではないかと。
現代的な応用
このケーシングは現在の当社モデルハウスでも見られるように、20年ほど前まで当社の標準部材でした。今では標準ではありませんが、アメリカ的な住宅デザインをご要望される方にはこのケーシングを採用しています。
カフェスタイルの住宅、北欧風インテリア、アメリカンカントリースタイル
といったデザインコンセプトの住宅ですね。
最後に、丸みのある一般的なケーシングと繋がるかもしれない話を。
ケーシング等丸みが持つ住宅への効果
アメリカ住宅のケーシングは、単なる機能部材を超えた、住空間の品質を左右する重要なデザイン要素です。
ここで窓のケーシング部材ではなく、当社が採用しているドイツサッシからもその伝統的なものを窺うことができることについても。
🇩🇪サッシのさり気ない魅力
建具枠一つ↓を観ると🇩🇪サッシは緩い勾配を持ち丸みも大きく明かりの陰影が目に優しく映る。これは木製サッシで培われ樹脂に受け継がれた機能美ではないかと。言われないと気付けない気付けないと解らないことけど、見た目何かが違うって感じるのはこういことかもしれない pic.twitter.com/scp7Ui8KHk
— oyakata (@ooyakata11) June 8, 2025
住宅新築を検討される方は、たかがケーシングという小さな部材です。たかがサッシのさり気ない丸みです。ですが、それらが相まることで住空間の印象は大きく変わるのですからおもしろいでしょ。だから家づくりって楽しいのかもしれませんけどね。
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