令和の時代に、杵と臼を買った理由

ケヤキの杵と臼の画像

若いスタッフの言葉に驚いた

 上棟式に餅ってまいたんですか?」
 餅まきって、どのように撒くんですか?

住宅会社で働く若いスタッフから、こんな言葉を聞いたのです。さらに訊ねると、お祝いの赤飯すら知らない若い人までいることを知り、ふと気付かされました。

確かに、この10年以上、餅まきどころか上棟式を行うケースは殆どいなくなっています。時代の流れと言えばそれまでですが、何か大切なものを気付かぬうちに忘れていたような・・・
そんな気がしたのです。

非効率と分かっていても

今の時代、餅が食べたければ餅つき機で簡単に作れます。スーパーに行けば、できたての餅も売っています。一般家庭で杵と臼を持つことは、保管場所も必要で、確かに合理的ではないし、何より負担が大きすぎるよなあと。

ケヤキの杵と臼の画像

それでも、私は買ってしまいました。この杵と臼を。

住宅会社だからこそできること

個人で持つには大変な杵と臼も、住宅会社なら活用の場があるのではないか。

 お客様向けのイベントで使える
 社内イベントとしても使える
 何より、若いスタッフに、スタッフの子どもたちに体験させてあげられる

私の子どもの頃の記憶

私が子どもの頃は、年末になると本家に親戚一同が集まり、みんなで餅つきをしたものです。
大人たちが「よいしょ!よいしょ!」と掛け声をかけながら杵を振り下ろす姿。その脇で息を合わせて臼の中の餅を裏返す”返し手”の役割をこなす割ぽう着姿のお母さんたち。そのタイミングの絶妙さに私の眼は金縛りだったような記憶があります。

そのつきたての餅の温かさと柔らかさ。つく前の炊き立てのご飯の味。同じもち米なのに味の世界が広がったのを思い出したのです。それが餅つき機の登場で、自宅で餅ができることで本家行事もなくなったのですが、体験と記憶は残っています。

そんな光景の記憶が、今の若い人たちには全くないのです。

体験”こそが、本当の財産

住宅という”家族の記憶が刻まれる場所”を提供する私たちだからこそ、子どもの頃経験した家の上棟に近い体験を、若い人にさせてあげなければと思ったのです。

20年ちょっと前、伊達藩沿岸部育ちの方が滝沢に家を建てることになりました。ご実家のご両親から、

 上棟式に餅まきをしたい!

ご実家の地域では当たり前なことだと言います。
そこで実際に餅まきしたところ、子どもたちは集まってくるものの、遠巻きに見ています。
「こっち来て拾って!」と声をかけ、子どもたちの傍に餅を投げると、なぜか走って逃げて行ってしまうのです。餅拾いの経験のない子どもたちにとって、何かを投げつけられたとしか思えなかったようです。その頃でさえ、いつの間にかそんな時代になったのかあ、、と思ったものです。

その頃の子どもたちが、今親となり家を建てているのですから。
親とその子どもたちに一緒に体験させるのは今しかないかもしれない、と。

杵と臼での餅つきは、確かに非効率で、今更かよ!とも思います。でも、その非効率の中にこそ、人と人とが集まり、突き手と返し手が声を掛け合い、それを囲む人たちが笑い合う。

そんな昭和を取り戻し、若いスタッフたちに、その体験をしてほしい。ただそれだけの、素朴な思いです。

杵と臼

子どもの頃なら、使われている木の種類なんて気にもかけたことはありませんでしたが、これケヤキだよなあと。ケヤキが普通なのかと調べてみると、9割がケヤキで作られるようです。

臼に使われるケヤキ

買ったこの臼は欅の一本木から作られています。「一本木」とは、一本の木の幹から刳り抜いて作るということ。継ぎではなく、一つの木から作ることで、強度と耐久性が格段に上がるようです。

欅(ケヤキ)は、

木目が美しく、使い込むほどに深い艶が出る
硬く、重く、強靭で、何十年も使い続けられる
水分にも強く、反りや割れが少ない

江戸時代から、臼は家の財産の一つとされ、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきたのだとか。欅の臼は、まさに何世代にもわたって使える道具なのです。
杵の柄は樫(かし)、頭部は欅
杵は二つの部分から成ります。

柄(持ち手部分)は樫材

粘りと弾力性があり、振り下ろす衝撃を吸収
しなやかで折れにくい
長時間使っても手が疲れにくい

頭部(餅を突く部分)は欅

臼と同じ欅を使うことで、木同士の相性が良い
硬さがあり、餅をしっかりつける
使い込むほどに表面が滑らかになり、餅離れが良くなる

この組み合わせは、何百年もの経験から生まれた知恵なのだと。

こうした伝統的?な道具に触れることは、効率や便利さだけでは測れない、良き日本の暮らしの豊かさを知ることに繋がるかもしれません。

これから、この杵と臼で、まずは社内で餅つき大会をしようと思います。
若いスタッフたちが、初めて杵を手にして、初めて「よいしょ!」と声を出して、初めてつきたての餅を頬張る。

先ずは、その時の反応から、次を考えようかと。

願わくば、この体験が彼らと子の記憶に残り、いつかその子らが親になった時、子どもたちに、

 昔、会社で餅つきをしてねぇ

と話してくれたとしたら・・・

その時、この杵と臼を買ったことに意味が生まれるかもしれません。

 

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