私が若いころもそうでしたが、
賃貸の冬の記憶を思い返すと、そこにはいつもスリッパがありました。
廊下を歩くためのスリッパ。脱衣所用には厚手のスリッパ。トイレの中にもスリッパ。冷たい床から足裏を守るため、冬は冬用にと、暮らしの中にスリッパが増えていく。あれは要するに、足が触れないわけにはいかない、床が敵だった。
第1弾で「布団から出た瞬間に足の裏が痛いくらい冷たい」と書いた。盛岡で建設中のこの賃貸アパートでは、そのような朝を迎えないで済むようにしました。4世帯のうち2世帯に、温水床暖房。それも居室だけではなく、1階2階の居住スペース全フロアにです。
今回はこの工事の話を、入居者の一日の動線に沿ってたどってみようと思います。
朝、ベッドから降りる一歩目
一日は、素足が床に触れるところから始まります。
写真は個室の床の蓄熱層のモルタルを乾燥させるため、暖房運転している状況を、サーモカメラで撮ったもの。縞模様に見えるのは、床下を通る温水配管です。埋まってしまっている状態では、表面には何も見えませんが、熱の目で見ると、床一面に温水の道が張り巡らされているのがわかります。
冬の朝、目覚まし止めて、床に足を下ろす。その一歩目が冷たくないだけで、朝の機嫌はずいぶんと違うはずです。
廊下は、暖かさの通り道
床暖房のある一般の家でも、廊下は対象外という間取りをよく見ます。居室は暖かいのに、部屋から一歩出ると床の温度が変わる。「敷居をまたぐと冬」というあの感覚です。
この建物では、廊下の床にも配管を施工しています。
昼に投稿した賃貸住宅の床暖房、乾燥運転の様子をサーモカメラで。
温度高めの温水を回しているのて、床の表示は40℃を超えている。ふだんの運転なら、20℃台前半。
南の個室から、廊下、脱衣室、トイレ、北の個室まで。配管の通っているところが、そのまま色になってわかる。#賃貸 #高断熱住宅 pic.twitter.com/c4q8eLyCBM
— 親方|岩手の高断熱住宅 (@ooyakata11) September 7, 2026
サーモカメラの動画を見ると、温水の道が居室で終わらず、廊下を通り、脱衣室へ、トイレへと続いているのがわかります。部屋と部屋のあいだに、冬の緩衝地帯を作らない。それが全フロア施工の意味です。
この建物はメゾネット、つまり1住戸の中に1階と2階がある造り。足裏は敏感です。だからこそ、床面で温度差を感じることのないようにしたかった。温水床暖房ありの2世帯では、1・2階両方の階の居住スペースに配管を回しています。家の中のどこへ移動しても、足の裏の温度が変わらない。目指したのはそういう状態です。
いちばん寒い場所にこそ。脱衣室とトイレ

家の中でいちばん寒い場所といえば、どこでしょうか。
これまであたたかい家にしたいとの要望で注文住宅を建ててきました。お聞きすると、
・暖房機のある部屋からお風呂まで、毎晩、決死の覚悟だった。
・ここのお風呂は、まるで露天風呂だね。と言われたの。
多くの住まいでは、脱衣室とトイレではないでしょうか。そして、この2カ所の寒さは快適性だけの問題ではありません。
暖かい部屋から寒い脱衣室へ移動し、服を脱ぎ、熱い湯につかる。この急激な温度差で血圧が大きく変動するのが、いわゆるヒートショックと言われるものです。入浴中の事故死は年間で約19,000人という推計(厚生労働省研究班)があり、交通事故で亡くなる方の数倍にもなります。事故は12月から2月の冬場に集中しています。だから、その対策として、小さな暖房機で温めている方もいらっしゃるはずです。
だからこの建物では、当社の注文住宅と同じに、脱衣室とトイレの床にも温水配管を入れたのです。写真は脱衣室の床、モルタルの下に配管が通っています。裸になる、肌を晒す場所こそ、床から暖める。断熱レベルもそうですが、賃貸でここまでやる建物は、盛岡ではまだ希少はずです。
LDK。暖房器具の見えない暖かさ
LDKの床にも、当然びっしりと配管が入っています。サーモカメラで見ると、窓際まで温水の道が届いているのがわかりますでしょうか。
床暖房の良さは、暖房器具が視界から消えることでもあります。ストーブの置き場所を考えなくていい。送風暖房機のような風もない。だから、温風が舞い上げるホコリもない。床全体を静かに暖めるだけなのです。
体感の面でも、床からの暖房は理にかなっています。人の暖かさの感覚は、空気の温度だけでなく、床や壁の表面温度に大きく左右されます。足の裏が接している床が暖かいと、同じ室温でも体感はぐっと暖かい側に寄る。エアコンで空気だけを暖めた部屋と、床の面から暖めた部屋の「同じ22度」は、身体が感じるものはまるで別物だと。たくさんの家を建ててきたからこそわかります。
そして日中は、南面の大きな窓が仕事をします。第1弾で書いたパッシブデザインの窓から冬の日差しが入り、床暖房と日射が和かな暖かさをつくります。ドイツの窓はドレーキップ式なので、内倒しにすれば真冬でも安心して換気できますしね。
仕組み。モルタルに埋めて、床ごと暖める


工事の中身もお見せしておきますね。床の下地を組み、温水配管を途中でつなぐことなく敷きこみ、モルタルで埋める。この建物の床暖房は、床材の下にパネルを敷くタイプではなく、モルタルの層に配管を埋め込む方式です。
モルタルは一度暖まると冷めにくい。床全体が蓄熱体になるので、温水が止まっている時間も床は暖かさを持ち続けます。じんわり暖めて、じんわり冷める。薪ストーブの残り火に似た振る舞いです。
配管材は、アルミを真ん中に挟み込んだ三層管を使用しているので、不凍液の補充や交換といった煩わしいメンテナンスはまったくというほど殆どありません。今日紹介している温水温度は、モルタル乾燥目的なので40℃以上ですが、実際の冬の暮らしでの温水循環温度は20℃台です。
もうひとつ、この床暖房が普通と違うのは、UA値0.24の高断熱の躯体に入っている点です。逃げる熱が少ない建物では、床暖房は低い水温でゆっくり運転するだけで足ります。断熱と床暖房は、どちらかで十分というように思われがちです。ですが、私たちの経験値では、高断熱だからこその床暖房なのではないかと、思えるようになっています。
4世帯のうち、2世帯だけの理由
この床暖房、4世帯すべてには入れていません。床暖房ありの2世帯と、なしの2世帯。同じ高断熱の躯体で、仕様と家賃の選択肢を2つ用意した形です。
賃貸経営の視点で言えば、これは仕様と家賃の実験でもあります。床暖房の分だけ建築費は上がり、その分は家賃に反映されます。それでも選ばれるのか。盛岡の入居者は、冬の快適さにいくらの価値を認めるのか。オーナー様と一緒に、その答えを市場に聞いてみることにしたのです。
そしてこの構成には、もうひとつの楽しみがあります。同じ建物に「あり」と「なし」が並んでいるということは、この冬、同じ条件で実測の比較ができるということです。数字は嘘をつかないので、結果はまたこのブログで冬に報告します。
まとめ。スリッパは、いらなくなるか
居室、廊下、脱衣室、トイレ。素足の動線を、温水が下からなぞる。この建物の床暖房は、そういう設計です。
スリッパのいらない賃貸になったかどうかは、入居した方の玄関を見ればわかると思っています。答え合わせは、この冬に。
次回は完成に向けた内装、無垢床と漆喰の仕上げの様子をお届けする予定です。内覧・入居のお問い合わせは【盛岡市の高断熱アパート問い合わせ先】からどうぞ。


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