高断熱サッシとトリプルガラスの真実:知られざる性能の落とし穴

窓周囲のヒートブリッジ熱損失比較の画像

はじめに:進化する窓の断熱技術

近年、住宅の省エネ性能向上に伴い、高断熱サッシトリプルガラスが注目を集めています。特に岩手のような寒冷地では、これらの技術が標準的になりつつあり、多くの家庭で採用されています。しかし、その真の性能について、私たちは誤解しているかもしれません。

高断熱サッシとトリプルガラスの基本

高断熱サッシとは

高断熱サッシは、従来のアルミサッシと比較して、熱の出入りを大幅に抑える設計がされています。主に以下の特徴があります:

  • 樹脂フレームの使用
  • 複層構造による断熱性能の向上
  • 気密性の高い設計

トリプルガラスの特徴

トリプルガラスは、3枚のガラスを重ねた構造で、以下の利点があります:

  • アルゴンガス、クリプトンガスを封入した高い断熱性能
  • ガラスエッジに樹脂スペーサーを採用した結露の防止
  • 遮音性の向上

断熱性能の指標:Uw値とは

サッシの断熱性能を示す指標としてUw値があります。Uw値が低いほど断熱性能が高いことを示します。

  • 高断熱樹脂サッシ+トリプルガラス:Uw値 = 0.8〜1.0ではないでしょうか。

驚きの事実:実際の性能は?

しかし、ここで重要な事実が浮かび上がります。サッシの断熱性能実際の窓の断熱性能には大きな差があるのです。

窓の取り付け方法による性能低下

高断熱サッシを住宅に取り付けた後、予期せぬ熱橋(ヒートブリッジ)が発生することがあります。これにより、以下のような問題が生じる可能性があります。

  • 実効性能の低下
  • 結露のリスク増加
  • 期待した省エネ効果が得られない

サッシの断熱性能シュミレーションの画像

サッシフレーム部材、ガラス性能、ガラススペーサーを組み合わせを考え、あとはサッシデザインとサッシサイズを入力すれば、画像のような個別の窓の断熱性能を簡単に計算できるアプリで遊んでいた頃です。

ちなみに、ガラススペーサーの性能は画像の中では下から2番目。Psi値ともψ値とも表される線で計算される熱損失性能のこと。その性能に一つ上の外周長さ4.48mを掛け算した値がこのサッシの場合のガラススペーサーの熱損失量ということになります。

サッシの断熱性能は、サッシが住宅に据えられた後の窓の断熱性能ではなかった。

「サッシの断熱性能=住宅の窓の断熱性能」 ではないのだ。

住宅に据えられたサッシの外?、窓周囲にガラススペーサーと同じように線状のヒートブリッジがあったのです。このことは、日本では誰も教えてくれない高断熱サッシの盲点でした。

わかりいい画像は、こちらのサイトの図を見てみてほしい。

サッシ単体の断熱性能のほかに、”installation ψw”というものがあるのを。

ガラススペーサーなら、各スペーサーを製造しているメーカーが提示する性能値を採用すれば良いだけですが、窓のψinstallとなれば、サッシを取付施工してるのは住宅メーカーでなり工務店自身なのですから、自分たちでしかわかりようがないわけです。

ところが、

これが、問題だとわかっても・・・ 

対策したとしても・・・ 

数値化できないことには・・・

やっていることの違いも効果もわからない。

そんなことで、我流でもいいから何とか数値化しなければと思うようになります。

窓周囲のヒートブリッジ調査の画像
数か月もこんな画像とデータを観ていると、自分なりのルールもできてくるようになります。

その結果、はじき出された数値を海外のデータとすり合わせてみるとほぼほぼいい感じになりました。

窓周囲のヒートブリッジ熱損失比較の画像左が日本の木造住宅で一般的な半外付けと言われるサッシの取付方法、
右が当社で一番多い取付方法を測定し計算してみた結果。
(※画像はイメージなので適当)

実際の窓の使用サイズだと窓の断熱性能はさらに下がる

この熱損失量を住宅にある全窓面積にかけ、断熱計算にプラスすればより実態に近い住宅の断熱性能値値を得られるはず。

とは、思ったのだが・・・

サッシの断熱性能標準サイズの画像

但し、よく断熱試験に使われる窓サイズ(w1690×H1370)って・・・最近の住宅ではあまり使われてなくないようなので、一番採用されることの多い窓サイズで検討してみます。

そこで、当社で居室の高窓に採用している窓サイズ(W750×H1250)でちょっと計算してみました。

高窓標準的サイズの画像
半外付けサッシ(w1690×h1370)で、サッシの断熱性能Uw=0.9と仮定すると、このサイズの場合で住宅への取付後の窓性能Uwinstalled=1.42となる。
これを縦辷り出しサッシ(w750×h1250)とした場合、サッシの断熱性能は概ね1割下がるとして、Uw=0.99として住宅への取付後を簡単に計算してみると・・・

衝撃の数値:性能半減の可能性

実際の使用サイズ(幅750mm×高さ1250mm)で計算すると、驚くべき結果が得られました:

  • サッシ単体の性能:Uw = 0.9
  • 取り付け後の実際の性能:Uwinstalled = 1.82

この結果は、断熱性能が半減する可能性を示唆しています。

以前にも、
トリプルガラスがペアガラス並みの断熱性能になることを記事にしてますが、

トリプルガラスの高断熱サッシがペアガラス並みの性能に?

註:この時との違いは、
①サッシの断熱性能Uw=0.8としていた。⇒今回は現実的なUw=0.9
②サッシの断熱性能を試験サイズのままで計算 ⇒ 今回は実使用窓サイズ
考え方は同じですが今回は実使用サイズでと視点が変わっていることに注意。

対策:真の高い断熱性能の窓を実現するために

この問題に対処するためには、以下の点に注意が必要です:

  1. 窓の取り付け方法の最適化:熱橋を最小限に抑える施工技術の開発
  2. 総合的な性能評価:サッシ単体だけでなく、取り付け後の性能を考慮した評価システムの構築
  3. 新しい断熱技術の採用:真空ガラスやエアロゲルなど、より高性能な材料の利用

まとめ:正しい知識で最適な選択を

高断熱サッシとトリプルガラスは、確かに住宅の省エネ性能向上に貢献します。しかし、その真の性能を発揮させるためには、適切な施工方法と総合的な評価が不可欠になります。

正しい現状と知識と情報を持った専門家のアドバイスを受けることで、本当の意味でドイツ並みの高性能な窓を実現し、快適で省エネな住環境を手に入れることができるのだと思います。

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