他愛もない話

以前、夫婦で入ったある居酒屋。
夜10時頃だったろうか。
表から格子越しの窓からさらっと眺めた分には客はいない。
静かでちょうどいがんべ、てことでその店に入ることに。

暖簾をくぐり表の玄関を入り、靴を脱いで座敷への扉を開く。
客はいない。
けど、隅っこに・・・人が横たわってる?
よく見りゃ、顔に手ぬぐいまでのっけて本格的な睡眠体勢。

・・・・
(どうする?このままそっと帰るか、それとも入るか)

お~い、お客さんだよ~!

結局、その後の対応を見てみたいという好奇心もあり、声を発してしまった。

一瞬、ピクッと動き、ちょっとした間の後、
慌てて起き上がったのは20歳位の男性だった。
その若者は私たちを見つけると、すぐさま後方のついたてに、
身体を伸ばすと、見えていなかったもう一人の男を起こしたのだった。

 (おい、おい、二人で大胆に寝てたのかよ・・)

それから二人は寝ぼけたままバツが悪そうに、きちっとした挨拶もせず、
頭をぺこぺこ下げながら奥のキッチンスペースへ下がる。
ここで、私はわざと、何も言わずに黙ったまま憮然とした態度で席に着いた。

そして少し経った頃、一人が持ってきたおしぼり。
これがまたくさい。
これで私は声を出したくなった。

このおしぼりはいつ洗ったものか?:わからない。
このおしぼりの臭いを嗅いでみたか:嗅いでみていない。
店長は?: 今日は休みで自分たちバイト二人だけ。
店開けてるのになぜ寝てるわけ?: 今日はもうお客が来ないと思った。
ここでのアルバイトはいつから: 二人共1ヶ月経っていない。
と、質問はここまで。
最大の責任者は彼らだけで店を開けさせた店長かオーナーだから。
その後頼んだつまみのレベルは予想通り。
決してうまいものではなかったけど、きれいに完食。

会計をして帰り際、
彼らのために、一言?だけ言わせてもらった。
余計なお世話だけど、これから仕事をしていくなら、裏表のある仕事はするな。
アルバイトとしてお金をいただいているのならなおさらだ。
お客が来なくても、いつ来てもいいように、
もし、時間があるなら掃除をしてみるといい。
そしたら、その姿を誰かがきっと見てくれてるから。

それからほどなくして、その店は閉まっていた。
その後、彼らがどうなったかはわからない。
けど、どこかで私の言葉を思いだしてくれることを願いたい。

彼らについ話してしまったのは若い頃の自分と重なったからだ。
私は学生時の夏休みのアルバイト。
現場に向かうトラックの助手席で、つい居眠りしてしまったことがある。
運転手は現場責任者の40代のO主任。

 おい、起きろ! 眠いのか?

  あ、、はい。 
  他のバイトであまり寝てないもので、、、

 そんなことは関係ない。それはお前の事情だ。
 この時間にも、会社は橋本お前にお金を払っている。
 寝るためじゃない、それを忘れるな!
 起きていれば、オレとお前で四つの目がある。
 アルバイトだって仕事を覚えたいなら聞くことはできるだろ。

O主任のこの時の言葉、今でも鮮明に憶えている。
普段は夜11時までファミリーレストラン、
朝は5時から1時間半程の荷受けのバイト、
夏休みの2か月間だけ三つかけ持ちの昼の土方バイトだった。

確かに眠かった。けど、その言葉をもらってからは必死で目を開いてた。
そして、それからのO主任にはかなり気にかけてもらった。
O主任、今どうしているかわからないけれど、
大切な教えをいただいたことに、今でも感謝している。

もう一つ、余談を。
とある焼き鳥屋の大将の話。
初めての時は、一人ふらっと玄関をくぐった店だけど、
おいしいのでたまに行くようになった。
3回目だったか、夜10時過ぎのせいか客はなし。

ホッピーと焼き鳥5本をお願いし、
グッと一口目の呑み込んだあと、何気に大将に話しかけた。

 今日は暇なんですね。

  九時まではいっぱいだったのす。
  九時過ぎだら、サ~ッと引いですまったなす。

 そうなんだあ、
 こういう早くに暇になった時って、お店早く閉めたりしないんですか?

  そんなごどはしたごどね!
  そんなお客の風向き加減で、店開けだり閉めだり、
  そんなのは商売じゃない!
  私はこの店始めて40年、そう思ってここで商売やってきたのす。
  そう思わねぇすか、旦那さん?

 うれしいですねえ!
 じゃあ、閉店の11時前なら安心して来れますね。

この時の大将の言葉で、私はこの店のファンになった。
というより、大将と大将の焼き鳥に学ばせてもらいたかった。

その後は、、

 その通りですね。
 それじゃ、これまで40年間、
 他にお店出そうなんて、思ったことはなさそうですね(笑

  あだりまえだすぺえ!
  おらのこのすごどは手すごとだす。
  おらの手が届くどこさすか、やっちゃいげねえと思ってますがね。

  ところで、お客さんは「いっしょうけんめい」て言葉わがるすか?

 はい、「一つ所に命を懸ける」ですよね。

  そのとおり。
  「一生を懸ける」ではないのす。
  オラだづはそう教わったもんだすよ。

と、そんなこんなの話をしながら飲み、
他にお客さんがいないお陰で、たくさんの教えをいただけた。
そして会計時、焼酎ボトルを入れキープ。
それからは、もう、お馴染み客(笑)

若い時はもちろん学ぶだけだった。
これまでは、
歳を重ねると教えを請う先輩が少なくなるばかりだよなあ、
と勘違いしていた。
最近では教えることでまた同時に教えられることを痛感している。
私のような者が教える?なんてのはちょっとおこがましい。
お互いに「気づき」を与えあえる関係、
そんなことを大事にしたいと思っている。

岩手で家の新築・建替えのハウスメーカーなら。

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