新聞少年か・・・

ガチャ、 ドサッ! ドサドサッ! ドサッ!

意識の遠くに聞こえていた音がどんどん近づいてくる。
あ・・・来たんだ・・・と闇の中で徐々に自分を取り戻しながら覚醒していく。
数分の間まどろみながら、まぶたを開くタイミングを見計らう。

よし!とまぶたを持ち上げた瞬間に布団も一気に持ち上げベットを飛び出す。
心地よいまどろみも温い布団への執着も脱ぎ捨て、すばやくジャージに
着替え、汚ないジャケットをはおる。軍手をポケットに入れ準備良し!!


店頭に入るドアを開くと同時に大声を張り上げ「おはようございます!」とやる。
すでに動き出している店長他数人に一声で自分が起きたことを
認識してもらうためだ。目線などこっちに向くこともなく、「おう!」と
いうお返しのあいさつが返ってくるのみ。時間勝負だからこんなもんだ。

ビニールに包まれた新聞の塊りがアスファルトに落とされた音。
その塊りを再度店内に置き換えた時、机や床に落とす音。
ビニールを破り丸めるときの音。部数を区域ごとに数え配分する音。
これら交錯する音でより緊迫し、目覚めもはっきりしてくる。

時々この喧騒を破り、
おい、橋本お! 井口起こして来い!と店長の怒鳴り声。

はい!と返事をしながら周りを見ると確かにいない。またかい・・・

奨学生は店内に住み込み(4・5畳個室)である。
この井口、同期であるが大柄で寝起きが悪い。
店内から続く廊下を彼の部屋に向かうとけたたましいベルの音が。
目覚まし時計ではない。目覚まし用ではあるがタイマーセットした
非常用ベルなのだ。いつものことなのでノックなどしないで部屋に入る。
非常ベルの中でも気持ち良さそうに寝ている井口。

おい、起きろ!とおもいっきり揺すってやる。
それでも起きない時はこんのやろお!とほっぺを平手打ち。
「あぁぁぁ、もうこんな時間なんだあ。。ごめん・・・」
この井口ってヤツ、寝起きは悪いが起きる時が
妙に素直で気持ち良さそうに起きるので何故か憎めない。
こんなことで自分の作業は遅れつつも店内に戻る。

ピッ、ズバ! ピッ、ズバ! と、

昨晩、一部毎にまとめて置いたチラシ折込を手作業ですべり込ませる音と、

バタン! ドン! バタン!ドン!とに店内の音は変わる。

新聞に折り込んだ後、10数部毎に倒し一部ずつずれるように滑らせる。
そしてそれをそのまま持ち上げ一気に落とす。すると折込みチラシと
新聞が気持ちよいくらいに上っ面が揃う。時々頭を出してるチラシが
あるのでドンドンと落とし調整もする音たちなのだ。

そして新聞への折込み作業が終わると、自分の持ち区域の前半と
後半に部数を分け、スポーツ新聞や週刊誌の部数を確保上に載せる。

そして自転車に積み込み開始。
最初は後ろの荷台に大きな束を折り曲げ、交互に自転車チューブの
ゴムで締め上げながら交互に4段重ね。
次は自転車の前カゴ。上が開くように円筒状に積み伸ばしていく。
(駅売店の新聞のように上から抜き取れる)
その高さは自転車の前が見えないほどになる。

さあ、スタートだ。
自転車のスタンドを外し、ふらつくハンドルのバランスをとりながら
ペダルに思いっきり体重をのせ加速する・・・と行きたいのだが
これが重さでなかなかスピードにのれない。このほんの数秒が、
気持ちではかなり長く感じる。このときほどもっと体重が欲しい!と
思ったことはないように思う。

一番緊張する数秒間でもある。ここでハンドルを大きくふらつかせると
前カゴに積み上げた新聞はカゴの部分から折れ、どっさりアスファルトに
落としてしまう。もっとひどいとスピードに乗れず、自転車を傾かせてしまい
前も後ろも全て崩れ落ちることもある。

最初の頃はこの魔の数秒間で何度泣いたことか。
散らかった新聞、はみ出たチラシをそろえる作業から始まるから
これで数十分は配達が遅れることになる。

これが雨の日なら、最悪である。

濡れた路面に広がった新聞を一心にかき集め、
濡れた新聞をタオルや軍手でふき取ろうとするが、
情けないことに拭けば拭くほど使い物にならなくなる。
ドジな自分が情けなくて、悲しくて、涙も抑えられない。

最近、次男がバイトで新聞配達を始めて1ヶ月半ほどが経つ。
いつまで続くのかわからない。が、少なくともまだ続いている。

冬場のこれからが正念場だろう。
暗い足元に何度滑って転ぶんだろうか。
その度に何度涙をこらえるんだろう。

息子のおかげか、ずっと昔の新聞奨学生時代を思い出しながら
頑張れ!と声もかけず、見守るだけの親父である。

2 件のコメント

  • あれからもう28年もたつのでしょうか。確か,もよりの駅は,
    O泉・園だったっけ。懐かしいね青春時代が・・・。今年もあと
    20日あまり。今年最後の親父の忘年会は月末晦日近くかな・。
    我が家の次男は4年ぶりに自宅で年越しができるようです。
    冬が来るのが本当に早い。19:00過ぎ区界の気温は-14度。
    信じられません。

  • あのお.. 過去年を数字に置き換えるのは止めようよ。
    28とかって数字見ると心臓痛くなる。。
    そして親父だって青春真っ盛りじゃよ!(体力除いて・・・)
    それにしても今思えばよくあんなとこまで遊びに来てくてよな。
    区界ー14℃!ってがあ(怖)
    今夜なら何度よお。想像するの止めとくは^^;

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